※この物語はフィクションであり、

現実に存在する人物、団体、

出来事とは一切関係ありません。

 

 

 

 

連続ゴルフ短編小説

 

 

 

- Over The Green -

 

 

 

 

(第5話)

 

 

 

ー最初の分岐点ー

 

 

 

 

最初から読む方はこちらです。

(第1話:登場人物紹介などはこちら)

 

 

前話

(第4話はこちら)

 

 

 

 

 

 

 

(期待が全くないと言ったら…嘘になる)

 

 

3月1日。

 

今日で高校のみんなと会うのも最後だ。

 

 

 

 

 

 

というよりも、おそらく

 

みどりと会うこと自体が今日で最後になると思う。

 

 

 

 

 

もう、みどりの志望校の2次試験の日程も終わったし、

 

 

 

(ぼくの試験も違う意味で終わったけど…)

 

 

 

 

 

 

最後の日だから、

 

またセンター試験の前の時のように

 

一番に登校しようと思って、

 

学校に朝の7時に着いた。

 

 

 

 

 

なんとなくだけどそうした方がいい気がして。

 

 

 

 

さすがに試験も終わったし、まだ誰もいないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

職員室に鍵を取りに行くと、

 

教室の鍵がもう既になかった。

 

 

 

 

まさか…

 

 

 

 

職員室の横の階段を登り、

 

渡り廊下から教室のある校舎へ歩く。

 

 

 

 

確かに、教室に誰かいる…

 

 

 

 

 

 

 

鼓動が少しだけ速くなるのが自分でわかる。

 

 

 

 

 

どうしよう、

 

最近の今までのパターンのように

 

もういちど学校の外に出て、

 

他の生徒に紛れて登校しなおそうか…

 

 

 

 

 

 

 

教室の入り口が見えるところで

 

立ち止まって少し考えてから、

 

ようやく覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだった、今日が最後なんだから…

 

 

 

 

 

教室のドアをガララと開ける。

 

 

 

やはり、いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、壱田くん」

 

 

 

 ぼく

「おはようございます。浮島さん」

 

 

やはり、一番に来ていたのはみどりだった。

 

 

 

 

 

みどり

「壱田くん、最後まで敬語だったね」

 

 

ぼく

「あまり、人づきあいが得意ではなくて」

 

 

みどり

「そうかな?私と話している時の壱田くんは、

 

決して人間が苦手という感じはしないけどね」

 

 

 

 

 

そうだった。

 

久しぶりにこの感覚を思い出した。

 

 

 

 

みどりと話していると

 

心の中が「何か」温かいもの

 

満たされてくるのだった。

 

 

 

 

まだ、ぼくにはこの感情が何なのか?

 

よくわからないけれど…

 

 

 

 

魅力的な容姿だから

 

惹かれているという理由だけでなく…

 

 

 

 

 

この気持ちに気づくのが怖くて

 

無意識に避けていたのかもしれない。

 

 

 

 

と同時に

 

熱をだして試験がうまくいかなくて、

 

この1ヶ月半の朝の時間を一人で落ち込んでいて

 

【この朝の時間】を選択しなかった

 

 

 

自分に対して、

 

もう一度、ひどく落ち込んだ…

 

 

 

 

 

 

 

ひとしきり、とりとめもない話をした後で、

 

進路についての話になった。

 

みどりの2次試験の結果は

 

「多分上手くいった感触」があったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

ぼくは滑り止めの滑り止めも、

 

正直できたかどうか全く自信がない。

 

また、試験中に焦ってしまったのだ…

 

 

 

 

 

 

ぼく

「じゃあ二次試験上手く行ったのに、なんで今日ははやく学校に来たの?」

 

 

 

 

 

みどり

 

なんでっていうと・・・うーんそうだね、

 

強いて言えば

 

終わるまで、まだ終わりじゃないから。

 

後期試験もあるかもしれないし

 

 

 

あとはできたと思った時でも、

 

その最後の最後の最後の瞬間までは何が起こるかわからないでしょ。

 

私が大切にしていることなんだけど

 

もうダメだと思ったときこそ…

 

状況に左右されずにいつもでも同じルーティーンを守りなさい

 

 と、ゴルフの先生の教えを

 

ずっと守ってきて上手くいったからかな

 

 

 

 

 

ぼく

「すごいね!

 

ぼくと浮島さんは

きっと根本的な人間のできが全然違うね。

 

ぼくは数本ネジをとめ忘れて生まれてきたのだね。たぶん。

 

 

センター試験が熱でダメだったあと、 

ずっと落ち込んでいたよ。

 

なんか、上手くいかないから、

毎朝一番に来るというルーティーンも変わってしまったし…

 

 

 

 

 

 

 

 

みどりは、ぼくの話をいつも真剣に聞いてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

みどり

「ううん、めいと君も私もきっと同じよ。

 

ただ、私が中学生のゴルフの試合でね、

 

すごい、大雨と強風の日があったの。

 

 

私がゴルフをやる目的は、

 

将来お父さんのような立派な会社の経営者になるための

 

良い訓練だったから、

 

スコアが「一番の目的」というわけではなかったけれど、

 

私がでる試合の同世代の子たちは、

 

みんな女子プロゴルファーになるためだけに

 

本当に、毎日一生懸命練習しているような人たちばっかりだったの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれ?今…)

 

 

 

ぼく

「すごいね。そんな人たちばかりのなかで、

 

この前、

 

全国4位だったんでしょう」

 

 

 

 

 

みどり

「そうね。でもまだ話の途中だわ(笑)」

 

 

 

 

ぼく

「ご、ごめん」

 

(激しいコミュ障なので、相槌のタイミングがわからない。

もしかすると、口下手だから営業も上手くいかないのかもしれない)

 

 

 

 

みどり

「いいの。それでその大雨と強風で

 

みんなスコアもボロボロだったの。

 

私も当時のベストスコアが75くらいだったから、

 

絶対に90以上打たない自信があったの…

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、結果から言うと、

 

その日のスコアは105だったの。

 

 

私、悔しくて初めて泣いたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼく

「浮島さん、そんなに熱い人なんだね。

 

普段の学校での様子からは、

 

そんな感じ全然しないけど」

 

 

 

(でも、去年、ゴルフ部に偵察にいった中島の話もあったし、

 

人の内面は聞かないとやはりわからない)

 

 

 

 

 

みどり

「一緒に回っていた子も『今日はゴルフにならない』って言って、

 

適当にプレーしたり、

 

体調が悪いとか、「イメージが悪くなる」と色んなこと

 

言って途中で棄権していたの」

 

 

 

 

 

ぼく

「ゴルフってそんな状況でもやるんだ」

 

 

 

 

みどり

「それがゴルフの醍醐味でもあるからね。

 

と言っても、別に雨は好きではないよ。

 

でも、試合は雨でもあるからね。

 

それで中学生の試合だから、

 

他の子のお父さんとか、お母さんが大体来てるんだけど

 

 

他の子みんなは

 

こんな成績で恥ずかしくないのか!』

 

『練習量が全然足らない』って怒鳴られてるわけ。

 

 

大人って変だね。 

 

 

ゴルフやらない、お父さんやお母さんは、

 

どれだけコンディションが違っていても「数字」しかみていないの。

 

子どもを投資対象としてしか見れないのかしら?

 

 

 

(ゴルフをやらない高校生のぼくには、

みどりの言葉が、

さっぱり意味がよくわからないが、

なかなか奥が深いスポーツのようだ)

 

 

 

 

 

 みどり

「私はその日、

 

お父さんもお母さんも忙しくて、

 

どうしても試合会場に来れないから

 

急遽その日だけ、お父さんがすごくお願いしてくれて

 

カイダ先生が特別に引率してくれたの。

 

日本にいるスケジュールを合わせてくれて。

 

 

 

それで、そんな状況で

 

18番ホールの横で先生が私のプレーの様子も見ていてくれて。

 

 

ホールアウトして、

 

スコアカード提出して、

 

真っ先に先生に

 

『今日105も叩いてしまって、すみません』って謝ったの…

 

そしたら、先生はなんて言ったと思う?」

 

 

 

 

 

 

ぼく

 「スコアカードをビリビリに破ったとか?(笑)

 

もし、ぼくの父さんだったら、やっぱりお前はダメだ!とか

 

絶対、言いそうだけど」

 

 

 

 

みどり

「私も、きっと他の子みたいに怒られるんだって思ったわ。

 

どれだけ今日、難しかったか説明しようとしたの…

 

そしたら先生は…」

 

 

 

 

===========

 

(試合会場にて)

 

 

 

 

カイダ先生

「いや〜今日のコンディションは相当タフだね。

 

いや、マジで面白い状況だわ。

 

きっと全英女子オープンでも、

 

今日の天候だったら試合は多分開催しないな〜(笑)

 

競技委員のおじさんに聞いたら、

 

今日は「何人最後まで残って帰ってくるかな〜」と

 

ドSな発言してたわ。あの人たちは趣味悪いね〜

 

ほら、スコアボード見てごらん。

 

実際みんなN.R(途中棄権)ばっかりだし、

 

みどりは最後まで回りきってすごいね」

 

 

 

 

 

 

みどり

「でも、ショットが全然前に飛ばないし、

 

風で大きくまがるし、少しダフっただけで池に入るし…

 

全然コントロールできなくて悔しかったんです」

 

 

 

 

 

 

カイダ

 

「みどり、それで大丈夫だよ。まったく問題ない。

 

コントロールできないことを学ぶ良い経験をしたね。

 

コントロールが効かない状況下で自分を保つコツは、

 

自分のルーティーンを守ることだよ。

 

ゴルフの経験値は、人から教わることはできないのだから」

 

 

 

 

 

 

さらにカイダは続けた。

 

 

「そして、

 

みどりがさらに良くなるために

 

あえて一つだけ伝えるとするならば…

 

 

 

 

自分に対して『105も叩いた』という言い方は良くないね。

 

 

 

ゴルフの神様は『傲慢な奴が嫌いだ』と思うよ。

 

 

 

 

 

それに、みどりは

 

なぜ、自分を責めるんだい?

 

泣けるくらい悔しかったのに、

 

それ以上に、自分を虐めてはいけないよ。

 

 

 

 

私は「最善を尽くした。105でホールアウトできた」

 

 

ただ、そう言えば良い。

 

そして、

 

『私は最後の瞬間まで最善を尽くした』

 

とホールアウト後に自分に対して正直に言えたかどうか?

 

それを判断基準に選択・決断しなさい」

 

 

 

 

===============

 

(ふたたび、高校の卒業式の朝の教室)

 

 

 

 

ぼく

「そんな先生…本当にいるの?」

 

 

 

 

 

みどり

「それで、私、その試合が終わってから

 

毎日、あの日の風や雨のことを思い出して、

 

毎日練習したわ。

 

多少、体調が悪くても、もう私は悔しくて泣くのは嫌だと思ったから。

 

例外を作ったら、絶対に私は最善を尽くした!と正直に言えないと思って、だから毎日」

 

 

 

 

ぼく

 「すごいね!だから浮島さんは、

 

部活を引退した後で、学校の成績も急上昇したんだね」

 

 

 

 

みどり

 「でも、さすがに高熱で練習に行くのは、

 

本当に無理だったときがあったの。

 

それでも練習に行こうとしたら…先生がこう言ったの。」

 

 

 

 

 

 

 

カイダ

 

『何も体を動かすことだけが練習ではないよ。

 

家で私の動画をくりかえし見なさい』

 

まず、これだけで良いから。

 

これには根拠がある。

 

ゴルフに限らず動作というのは、知識でまず理解されて、

 

脳にインプットされる。

 

この時にインプットする方法は、

 

人によって「目、音、体感覚」の優位性が少し違うけれど、

 

ゴルファーは「目」を鍛える必要が絶対にある

 

本質を見抜く目だ。

 

 

そして、

 

記憶というのものは「樹形状に連続した連なりを持つ」

 

だから、全体像を先に「目で見て」把握することだ。

 

 

いいかい、みどりは優秀なゴルファーなんだ。

 

 

この時、大事なことは

 

「まずわからないことでも理解しようとする態度」が重要だ。

 

それがみどりはできている。

 

 

だから、

 

焦ってはいけない。

 

最初からわかる人は誰もいないよ。

 

 

 

次に他の人に「体系的に説明できるようになるまで」

 

自分に対して繰り返し語りかける。

 

これをアウトプットという。

 

この繰り返しはやがて自動化されていく。

 

 

そうして潜在意識に初めて落としこまれる。

 

脳は省エネを好むからだ。

 

 

いいかい、みどり。

 

ゴルフは科学だ。

 

「筋肉が覚えるなんてバカな発想」はやめることだ。

 

 

 

 

 

ぼく

「ごめん、浮島さん。正直…話に全くついていけないんだけど」

 

 

 

 

みどり

「そう?ごめんね。

 

ただ、私は先生の言葉を信じていたら

 

少しずつ練習に対する概念が全く変わっていったの。

 

 

 

ただ球を打っていては全然ダメだということに気づいたの。

 

上手い選手の考え方を研究すれば、2倍も3倍も早く上手くなれるって

 

 

 

先生の言葉を信じて

 

イメージトレーニングだけでなく、

 

アファーメーションやインカンテーションをするようになったの。

 

もちろん、誰よりも練習するということは

 

私が私に対して約束したことだから、一生懸命続けたわ」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

ぼく

 

「アファー???印鑑?何それ」

 

 

 

 

みどり

 

「あぁ、それはね…ーーーーーーー」

 

 

 

 

タケシ

「みどり、めいと、おはよう」

 

 

 

 

 

同じクラスの

深草タケシが入ってきた。

(後にぼくの取引先として再会するわけだが…)

 

 

 

ちょうど同じようなタイミングで

 

他の生徒も次々に入ってきて

 

話は、それきりになってしまった。

 

 

 

 

 

タケシとみどりが

 

親しげに話しているのを少し離れてみる。

 

 

 

 

 

以前、二人が一緒に学校から帰っているのを

 

誰かが目撃したと言っていた。

 

 

 

 

 

始業時間のチャイムがなり、

 

卒業式のために、体育館へ移動する。

 

 

 

 

 

いつも退屈な校長の話も、

今日が最後だと思うと少しだけ感慨深い。

 

 

 

 

 

卒業式が終わり、

 

教室に戻り最後のホームルームが始まった。

 

 

 

 

クラスメートの一人の発案で

 

文化祭でやった

 

映画「卒業」の

 

テーマソングを最後に合唱することにした。

 

 

 

 

 

【サイモンとガーファンクル】

 

「サウンド・オブ・サイレンス」

 

「スカボロー・フェア」

 

「ミセス・ロビンソン」

 

の3曲を歌った。

 

 

ジョー・ディマジオが誰なのかも

よく知らないけれど…

 

 

 

 

 

 

 

そうして、卒業式がすべて終わり、

 

校門の外で、まだ帰らないクラスメートたちと

 

話したり、携帯で写真をたくさん撮った。

 

 

 

 

 

 

 

ぼくもなんとなく帰るか、

 

その場に残るか、

 

 

 

相変わらず

 

中途半端な位置でポツンと立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背後から声がする

 

 

 

みどり

「めいと君、卒業おめでとう〜。

 

私、めいと君と勉強できて楽しかった。

 

初めてゴルフ以外の友達できたし

 

絶対、大人になったらゴルフに一緒に行こうね」

 

 

 

 

 

 

 

ぼくは突然のことでひどく戸惑ってしまった。

 

 

 

そして、今こそ

 

何かをみどりに伝えるべきだと思った。

 

 

 

 

 

 

だって、今日が最後なのだから…

 

 

 

何かを言うなら「今」しかないのだから…

 

 

 

 

 

 

でも、何を伝えたら良いかわからない。

 

 

 

 

あぁ、今がたぶんラストチャンスなのに…

 

 

・ 

 

 

 

 

「みどり〜今から残っているみんなで

 

「冬の散歩道」歌うから、こっちきて〜」

 

 

 

 

 

クラスメートの佐藤さんがみどりのことを呼んでいる。

 

 

 

あぁ、なんてグズなんだろう。

 

完全に機を逃した。

 

 

 

 

みどり

 「さっきのは絶対の約束だからね。めいと君も一緒に歌おうよ」

 

 

 

 

ぼく 

「いや、ぼくはもういいよ。歌も苦手だから佐藤さんに悪いし、

 

じゃあ、ありがとうね」

 

 

 

 

 

 

みどりに背を向けてぼくは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

よく考えて欲しい…

 

 

 

映画じゃないんだから、

 

 

 

 

式中のエレインを連れ去るなんて

 

絶対にできそうもない。

 

 

ぼくは壱田めいとであって、

 

 

ベンジャミンではないのだから。

 

 

 

振り返ることなく、校舎を後にする。

 

 

遠くでクラスメートたちの歌声が

 

もう一度響いてきた。

 

 

 

 

 

(冬の散歩道 /  A hazy shade of winter)

 

 

Time,time,time

See what’s become of me.

 

While I looked around for my possibilities.

I was so hard to please.

 

But look around leaves are brown.

And the sky is a hazy shade of winter.

 

時間、時間、時間よ!

僕がどうなってしまうかわかるだろう

 

自分の可能性を探そうと見回している間に

自分を満足させるのは難しかった

 

でも周りを見回してごらん、木の葉は茶色になり

そして、空は冬のかすんだ灰色だ

 

Hear the Salvation Army band.

Down by the riverside’s

Bound to be a better ride.

 

Than what you’ve got planned.

Carry your cup in your hand.

 

下流の川岸から

 

救世軍の音楽隊の音が聞こえるだろ

 

君が思っていたよりいい状況だ

 

自分の手でチャンスを掴むんだ

 

 

 

(by Paul Simon)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(第6話へ続く)