※この物語はフィクションであり、

現実に存在する人物、団体、

出来事とは一切関係ありません。

 

 

 

 

連続ゴルフ短編小説

 

 

 

- Over The Green -

 

 

 

 

 

(第2話)

 

 

 

ー みどり ー

 

 

 

(第1話はこちら) 

 

 

 

ぼくが、浮島みどりと出会ったのは、

 

高校生のときだった。

 

 

特に高校3年生のときは同じクラスだった。

 

壱田が出席番号1番、浮島が出席番号2番。

 

(つまり席が前後ということになる)

 

 

みどりは、この高校ではちょっとした有名人だった。

 

 

 

 

みどりの父は、名の知れた企業の社長で、

 

雑誌などで、特集されるようなこともあったようだ。

 

(といっても高校生のぼくは本当のところはよくわからない)

 

 

 

 

 

自分の家が、お金持ちだからといって、

 

それを鼻にかけることは、一切なかった。

 

 

 

 

 

最も目立つような女王グループともうまくやりながら、

 

かといって、擦り寄るわけでもなく、

 

絶妙な距離感で、一人の時間を過ごしているように見えた。

 

 

 

 

 

今29歳のぼくから考えてみても、

 

17歳の時の彼女はとても芯が通っている人間なのだと思う。

 

 

 

孤独を恐れてはいないのだ。

 

 

 

 

 

(そして、彼女の美しさに惹かれた男子生徒は、

 

例外なく「全滅」していた…)

 

 

 

 

 

 

彼女は学期末になると、よく全校生徒の前で表彰されていた。

 

 

 

みどりはいわゆる「一人ゴルフ部」だった。

 

 

 

 

 

小学校時代からゴルフをやっていたみどりだったが、

 

この高校には、そもそもゴルフ部がない。

 

 

 

 

ジュニアゴルフ選手権の高校生の部に出場するためには、

 

教職員の中から一人、どうしても顧問の先生が必要だった。

 

 

 

 

そこでみどりは高校1年の時に、

 

うちの高校でもっとも暇そうな部活の

 

先生に顧問を頼み込んだのだ。

 

 

 

そう、それがぼくが所属している

 

図書部というわけだ。

 

 

 

 

実際、図書部としての活動は、ほとんどないに等しい。

 

せいぜい、昼休みの本の貸し出しくらいだった。

 

 

 

 

 

 

高校2年のある昼休み、ぼくが図書部の仕事をしていると

 

「あの、桜井先生いますか?」

 

クラスが違ったみどりが訪ねてきたことがあった。

 

 

 

 

 

 

 

ぼく

「たぶん、今は職員室だと思うけど…」

 

 

みどり

「ありがとう。ところで、今、あなたが読んでいる本は何??」

 

 

ぼく

「宗田理さんの、『ぼくらシリーズ』だけど…」

 

 

みどり

「ふーん、それは中学生までに卒業する本だけどね」

 

 

ぼく

「・・・(いいじゃないか、別に好きなんだから)」

 

 

みどり

「嘘。私もよく読んでたから…面白いよね。じゃあ桜井先生のところに行くから」

 

 

 

 

 

 

こういう感じの冒険物が好きそうには見えない

 

女子だと思っていたので、

 

 

 

とても意外な感じだった…

 

 

 

 

 

と同時に

 

ぼくがみどりの存在を意識するようになったのは、

 

このときが初めてだったと思う。

 

 

 

 

 

みどりの「一人ゴルフ部」の

 

スタイルは非常に変わっていた。

 

 

 

 

(これはぼくが、友人の中島に聞いた話だ)

 

 

 

 

あるとき、同じ学年の中島たち男子学生3人が

 

ゴルフ部に入部しようとしたところ、

 

みどりは快く承諾した。

 

 

 

 

 

うちの高校にゴルフ練習場はもちろんない。

 

 

(だって、そもそもゴルフ部はないのだから)

 

 

 

かわりにみどりが元々通っていたゴルフ塾が

 

校外指定練習場として

 

高校から認定されていた。

 

 

 

 

そのゴルフ塾は、

 

ゴルフ場にあるわけでもなく、

 

まして、

 

ゴルフ練習場の中にあるわけでもなかった。

 

 

 

学校の最寄りの駅のビルの雑居ビル3階に「それ」はあった。

 

 

 

 

ぼくも電車で家に帰るので、中に入ったことはなかったけれど、

 

場所自体は知っていた。

 

1階がコンビニ、

 

2階が鍼灸院、

 

3階がそのゴルフ塾だ。

 

 

 

ゴルフ部に入部希望した、

 

同じクラスの中島によるとそこは少し変わった場所だった。

 

 

 

入り口で「ピッ!」と指紋認証すると自動ドアが開いた。

 

中には誰もいない。

 

 

人が一人だけ入れるくらいのスペースに

 

マットとボールが置いてあり、

 

そのまわりを二重の細かい網目のネットで囲ってある。

 

 

 

 

「危ないから一人しか中に入らないでね ( Kaidaより)」

 

という掲示あった。

 

 

 

その打席用ネットの横にはパターの練習場があった。

 

 

 

みどり

「みんなは、私が打っているのを最初によく見ていてね」

 

 

中島たち3人は、

 

ネットの横にあるベンチに腰掛けた。

 

 

周囲を見回すと

 

壁にはこの後打席を使用する予定の

 

電子掲示板式の

 

時間別の予約表があった

 

「15:30〜18:00  KY high school(うちの高校の名前)」

 

 

その下には、

 

「18:00〜19:00  Mr.Tanaka」

 

「19:00〜20:00  Mr.Nakasone」

「3:00〜4:00 Mr.Ito」

 

 

そんな感じで

 

24時間びっしりスケジュールが埋まっていた。

 

 

 

 

みどりは3人に対して

 

「じゃあ、今からKY高校ゴルフ部の練習を始めます」

 

というと、

 

 

 

モニターの横にあるリモコンを手に取り

 

スイッチを押した。

 

 

 

 

画面がつくと、

 

一人の年齢不詳の男が現れた。

 

 

 

 

 

 

画面の男

 

「さぁ、今日もたのしく練習していきましょう。

 

ます、一番大切なセッションから始めますよ。

 

では、あなたにとってゴルフをやる目的や目標はなんですか?」

 

 

 

中島たちは驚いた…

 

 

 

 

みどり

「浮島みどりです。カイダ先生、今日もよろしくお願いします。

 

私の目標は父の会社のような、良い会社を経営していくための

 

選択、判断、実行力を高めるためにゴルフをします。

 

そのために、私は、来年20XX年の△△女子アマチュア選手権を

 

競技人生の最後として、

 

今日も悔いなく楽しんで練習します」

 

 

 

 

 

 

というと

 

「はい、次、中島君の番」といって、

 

リモコンを渡してきた。

 

 

 

 

 

よく見るとリモコンには「録音」のボタンがある。

 

つまり、今の音声は「カイダ先生に届いている」らしい…

 

 

 

 

 

中島たち3人は非常に動揺した…

 

 

(みどりと仲良くなるためであって、ゴルフを別にやりたいわけではなかったから)

 

 

 

「ぼ、ぼ、ぼくらは今日は見学ということで、浮島さんの練習見ているよ」

 

 

そうなの?という目でみどりは3人をみると、

 

「じゃあ、部活の流れを見ていてね」

 

 

 

 

リモコンの次のボタンを押すと

またしても、カイダの次のメッセージが流れ始めた。

 

 

それをメモしたり、

みどりはなにやらブツブツ言いながら、

 

 

スイング練習をし始めた。

 

 

 

 

みどりのスイングは、

 

中島たち素人からみても

 

とても美しかった。

 

 

 

みどりは、鳥かごの中で、ボールを打ちながら、

 

壁を見ているのではなく、

 

 

 

何か他のものを見ているように、

 

自分の世界に入っていた。

 

 

 

スパッ!ドーン。

 

スパッ!ドーン。

 

スパッ!ドーン。

 

 

中島たちは、ベンチでみどりの姿をただ見ていた。

 

 

 

17:50になると

 

次の人が来るから、

 

そろそろ「帰ろっか」とまた

 

学校で見かける

 

いつものみどりに戻った。

 

 

 

最後にまたリモコンを押すと

 

画面の男からまたメッセージが流れた。

 

 

 

 

「はーい、今日も練習お疲れ様でした。

 

自宅でできるトレーニングメニューは、

 

各自のスマホに送っておくから復習しておいてください。

 

学生は勉強を、社会人の方はお仕事を頑張ってくださいね。

 

それでは、また次回お会いしましょう」

 

 

 

 

 

次の日から中島たちはゴルフ部には行かなかった。

 

 

そう、彼らは気づいてしまったのだ。

 

 

 

 

 

みどりは、彼ら男子高校生に興味が全くないことに。

 

 

そして、彼女が恋をしているものは、

 

もっと別のものであることにも。

 

 

 

 

 

(第3話へ続く)